特にさびしくないけどレズ風俗に行きましたレポー後編ー
前回、2週間後にレズ風俗の鑑賞コースを予約した私。
その日が近づくに連れ、ちょっとずつ緊張が増していった。
私は昔から緊張すると吐き気に来る。実際に何をするのか考えるとその度吐きそうになるので、できるだけ考えないようにし続けた。
しかし時間は止まらない。忙しく生活しているうちにとうとうその日は来た。
レズビアン鑑賞、予約当日である。
朝起きたときからすでに緊張していた。
当日は昼頃に最終確認の電話をしなければならない。
私は再度お店に電話した。
「すいません、本日予約をしている佐野です」
「ありがとうございます。それでは駅についたらまたご連絡ください」
そう、電車に乗って駅まで行かねばならない。
レズビアンのセックスを観るために。
実家なので家を出るときには父に「行ってきます」と伝えた。まさか父も、息子が自分のセクシャリティへの興味から、レズビアンのセックスを見に行くなんて考えもしないだろうなぁなんてことを思った。
電車の中は大変だった。いつも私は電子書籍リーダーを持って行き、それを電車の中で読んでいるのだが、全く文章が頭に入ってこない。
緊張はもう恐怖に変わり、どうやったら合理的な理由をつけて今日の企画をなかったことにできるかをひたすら考えていた。仕方がないので電子書籍で買っている百合漫画をひたすら読み続けた。こちらはなんとなくだが楽しめた。
駅自体は何度も行ったことがある場所だったので迷うことなく進めた。自分は行きたくないと思っていても足はちゃんとそちらへ進もうとする。不思議な感覚だった。
駅についたのでまた電話をする。
「それでは指定のホテルへ向かってください。ついたら部屋番号を教えてください」
ホテルへの道自体はそれほど難しくなかったので、すぐに見つかった。外観も普通のホテルっぽく、いわゆるラブホ!という感じではなかった。ただ、受付を待つ間横を通る男女にはなんとなく生々しさを感じた。
ホテル代は3人分で5010円。支払うと鍵ではなく部屋番号を書いた紙をもらった。なにせラブホテルなんて使ったことがないのでこれで開くのか半信半疑だったが、とりあえず部屋に向かうと部屋番号が点滅していた。なるほど、なんかのシステムでなんか管理してるらしい。ドアは何もせずともすんなり空いた。
部屋の中には大きなベッドが一つ。
ここで今から行われることを想像すると感じたのはとにかく恐怖だった。
未知のものに対する恐怖である。
それでも電話をしろと言われていたことを思い出し、また電話をかける。
「307号室です」
「わかりました。伺います」
来なけりゃ良いのに・・・。
自分で予約したくせにそんなことを思った。
このまま一時間誰も来ずに終わってしまえば楽なのに。こんな怖い思いをしなくていいのに。
私はソファに座って震えながらひたすら待ち続けた。体感にして20分近く。
ピンポーン
甲高いチャイム音に私は2cmほど飛び上がった。慌ててドアまで歩き、開ける。
そこには二人のきれいな女性がいた。笑顔で「こんにちは~!」と挨拶をもらう。私も挨拶を返し、部屋の中へ招く。最初にお金を払い(ホームページは3万円だったが実際の金額は2万5千円だった)、二人はそのままお風呂へ向かった。腕時計を観ると体感20分だった待ち時間は、実際は5分だったことに気づいた。
これからあの人達は自分の前で裸になってセックスをするのだ・・・。そう思うとまた怖くなった。今度は「お風呂から出てこなければいいのに」と思ったがそんなことは起こらない。
しばらくしてキャストの二人はタオルを巻いて出てきてくれた。
レズ風俗だからといってお客さんを無視して突然始めるわけではない。私が異様に緊張していることを汲み取ってくれたのだろう。キャストさんの一人がベッドに座って自分から話しかけてくれた。
「緊張してますか?」
「・・・ものすごくしてます」
「私達もですよ~!」
不思議なことにこの一言で私は幾ばくか楽になった。自分だけじゃないというのはやっぱりなんであれ安心するのかもしれない。
「今日は何が見たいとかありますか?」
そう聞かれたので私は正直にすべてを話した。自分がノンセクであり(ノンセクは説明無しで通じた)女性のセックスを見たときどう思うのかが知りたいということ。自分はいないものと思ってもらってやってほしいこと。もしかしたら他の性愛者のように興奮はできないかもしれないこと。
相当めんどくさい客だったと思うがキャストさんは笑顔で答えてくれた。そのままなんとなく世間話のような話を2,3して、
「それ」は始まった。
タオルを巻いた状態で何度もキスをするところから始まった。
唇から耳、首、肩・・・下がっていくに連れて徐々にタオルがはだけ、胸が顕になった。
段々と全身が見えていく、触られた側も気持ちよさそうにして、小さな矯声も聞こえた。
私はそれを見て、
綺麗だなぁと思った。
あまりにも美しかった。
不快感は一切なかった。
それはまるでよくできた絵画のようだった。美しくて、ずっと見ていたいと思った。
今まで映像では恐怖を感じて目を背けていた女性器すら、特に怖いとも感じなかった。
けれど、
私の性器は少しも反応しなかった。
嗚呼、「生物」の部分がどれくらい残ってるなんて、私はなんて愚かだったのだろうか。
そんな部分はもうとっくの昔に全て死んでいたのだ。
私はもう、女性を「性的に」愛することは一生できないのだ。
どれほどそれを眺めていても、わざと、無理やり興奮しようとしても、無理だった。
眼の前で私の性的対象であるはずの存在が、あまりにも無防備な姿を晒しているというのに、下着の下で私の生殖器官は役割を果たそうとしなかった。
半分は寂しく、もう半分は安心を覚えた。
私は心の何処かで自分はやればできるんじゃないかと思っていた。昔は人並みに性欲も他人に向いていたし、自分でやろうと思えばできる。多少気持ち悪いかもしれないけど、頑張ればなんとかなるんじゃないかと。
それはただの願望であった。
現実にはそもそも行為を行うのに物理的な障害があったのだ。
それでも私はもう半分で安心を覚えた。良かった。私はやっぱりノンセクシャルで間違いなかったのだ。
「生物」ではなく、「人間」だったのだ。
思えば私は、自分ができたとしてもそれが怖かったのではないかと思う。自分でない人がやっているのはしょうがない。けれども自分がそんな行為をできてしまうということがもし起これば、それはとてつもなく嫌なことだったのだろうと思う。その可能性が完全に否定されたことに、私は安心を覚えた。
全裸でまぐわう女性二人を見ていると、私の中に一つ、不思議な感情が芽生えた。
彼女らの体を触ってみたいと思ったのだ。顔、首、肩、手、背中、腰、足、そして性器さえも。
だけれどそれは性的な興味ではなかった。綺麗なものに触りたいという気持ち、どうなっているのか構造が知りたいという気持ちだった。私は女性の体に性的には全く興味が無いのに、「どのような物なのか」といういわば芸術的、工学的な興味はあるのだということが少し面白かった。
性器を舐める女性と、舐められる女性と、それを眺めているのに全く興奮していない男性の私、という奇妙な空間ができていた。キャストの二人は心底楽しそうに、幸せそうにセックスをしていたので私もなんだか嬉しく、楽しくなった。
終了の電話が鳴った。
あれほど怖かったはずの時間はあっという間に終わった。
キャストさんには「どうでしたか?」と聞かれたのでありのままに思ったことを伝えたが自分でも整理できていなかったのでうまく伝えられたかはわからない。
その後二人はまたお風呂に入り、ホテルの入口でお別れした。
ホテルを出てすぐ、とりあえずスマホを取り出して、私の使用している婚活サイトのプロフィールに書いていた「相当頑張らないと性的なことはできません」を「ほぼ無理です」に変えた。
それからとうの昔に亡くなっていた「私の性欲」の冥福を今更ながら祈った。
確定診断を得たら、次はどう向き合うかだなぁと思いながら、
まあ後で考えようと、とりあえずメロブに行って百合漫画の新刊を漁った。
キャストのお二人、私のためにありがとうございました。
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